日米の低金利政策に関して

米国利上げは2012年以降

6月末で米国のQE2(量的金融緩和第2弾)が終了したが、米ドルの市場金利はいまだに低位に止まっており、ドルの上値も重い。ドル/円相場を動かす材料はさまざまだが、ドル高、円高のいずれに動くかは、日米経常収支不均衡に伴うドル安円高圧力と、日米金利差による日本からの「円売りを伴列資本流出によるドル高円安圧力との綱引きと言えよう。

 

その点、本邦では東日本大震災を受け、貿易収支は大幅に悪化したが、所得収支の黒字は高水準で推移しており、依然として経常収支は黒字である。このため、当然ながらドル/円相場を展望するうえで、今後の米国経済や金融政策が重要となる。

 

4月以降の米国景況感の悪化は、本邦の震災を受けた生産活動の停滞や、ガソリン価格上昇による実質的な消費の伸び悩みといった一時的とも言える要因があるとみられるが、金融危機以降、ほぼ一貫して労働市場の改善ぶりと住宅市況は芳しくない。

 

特にさまざまな政策対応を受け、米国の企業業績は大幅に改善したが、利益の使途はもっぱら負債の削減に向けられ、積極的な設備投資や雇用の拡大にはつなかっていない。米経済の回復ペースは緩慢としたものになるだろう。連邦政府の債務残高が法定上限に達している米国にとって、追加的な財政拡張政策を取る余地は皆無に等しい。また、追加の金融緩和策も、QE2がガソリン価格の高騰により、むしろ景気への下押しになったとする批判を説き伏せない限り、難しいだろう。結局、米国が取り得る手段は、現在の異例な低金利政策を続けることである。米国の利上げ開始時期は早くても2012年第2四半期以降とみており、かなりの時間を要するだろう。

 

さらに、ドル/円と金利差の関係では、名目金利差以上に実質金利差が重要だ。米国の連続利上げを見越し、日米名目金利差が拡大の一途をたどった期間も、実質金利で日米がおおむね並んでいる問は、むしろドル安円高気味に推移している。足元でも実質金利(=名目金利一インフレ率)では円かドルを1%程度上回っている状況だ。もちろん、歴史的にみればほぼゼロに近い米ドル名目金利が上昇し始めれば、過去に比べ素直にドル高の反応となるかも知れない。ただ、実質金利での日米逆転とならない限り、自ずと限界が生じるだろう。

依然として1ドル80円前後が続く

円とドルが低金利政策で並走する間は、多少米ドルの名目金利が上昇しても、実質金利で円かドルを上回っている間は、常に80円を割り込むドル安円高の可能性を想定する必要があるだろう。もっとも、本邦貿易収支の悪化を受け、円
高圧力もいくぶん和らいでいるため、80円を割り込んでもさほど深いものとはならず、78円程度に止まるかも知れない。

 

一方、円安方向への戻りに関しては前述の通り、2011年度中の大幅なドル円相場の反発は期待しづらい。加えて、本邦製造業の生産が徐々に回復するとの前提に立てば、85円を明確に上抜けるにはドルにとってかなり前向きな、あるいは円にとってかなり後ろ向きな材料が必要となろう。

 

さて、こうした見方に対するリスク要因は、米経済のV字回復とそれに伴う利上げ開始時期の前倒しである。この場合、感覚的にはドル/円相場も安定した上昇基調を辿りそうなものだが、果たしてそうだろうか。米ドルには、特に利上げの初期段階では、いくつかの波及経路によるドル高抑制要因が働きやすい。例えば、利上げに踏み切れるほど景況感が改善した場合、米国の個人消費が好調に推移していると思われるが、これが米国の輸入増加を通じた経常赤字の拡大によって、ドル高を抑制する。

 

また、デュアルマンデート(2つの政策目標)を掲げる米FED(連邦準備理事会)が利上げに踏み切るとなれば、世界的な景況感も決して悪くはなかろう。こうした環境では、とくに米国投資家はより高いリターンを求め、対外証券投資を活発化させる。これもドルにとっては重石となる。

 

さらに、利上げの初期段階では、米国対内証券投資の主たる受け皿である米国債への投資が抑制され、必ずしもドルの支援材料とはなりにくい。結局、世界屈指の経常赤字国通貨であるドルが安定した上昇軌道を描くのは、そう容易なことではないとみている。

外国為替市場(FX)は、米国雇用統計の発表を控えて模様眺め気分の強い展開が続くと見られ、ドル円や主要通貨は動意にかける値動きが先行すると考えられる。ただし、昨日の海外時間ではギリシャの財政赤字問題や支援に関する不透明感から再びソブリンクレジットリスクを意識する展開が強まっており、これを象徴するようにスイスフランが上昇を続けているので、本日の欧州時間からも同様の流れが強まる可能性がある。